コラム 大阪湾の水産資源を持続可能にする新しい流通構築

この時期になると、大阪湾沿岸の漁港は活気づく。漁船の狙いは「シラス(カタクチイワシなどの稚魚)」である。日本全国でちりめん、釜揚げシラスの消費は大きいが、地方によって漁期は異なる。大阪湾では、5月に入ってからシラス漁がスタートして、いまごろが最盛期となる。この時期に獲れたシラスは「生シラス」として、飲食店や百貨店の店頭に送られることとなる。

http://www.nankai-sui.jp/kishiwada/151028_017/

稚魚を獲るというのは、水産資源の維持に対してはマイナスのことではある。しかし、大阪では流通の仕組みを変えることによって、「獲りすぎ」を防ぎつつ、「漁民の収入確保」に取り組むことにこれまでのところ成功している。

その仕組みは、漁港単位で獲れた魚を流通させるのではなく、生シラスと鰯に関しては、すべて岸和田の施設に送り、そこで「入札(セリ)販売」を行うことに切り替えたことだ。

水産の流通に関して言うと、大まかにいうと、全国各地の漁港に漁師がおり、「漁協」を構成している。一つの港に複数の漁協がいる場合もある(漁獲の手法の違いなどで)。そして、それぞれの漁協が漁師の魚を集めて、卸会社が出荷する。そのまま大手の小売業などに行く場合も増えてきたが、大半はその都道府県の規模の大きな市場に出荷され、値段が付けられ、そこから豊洲や大阪などの大都会に運ばれていく。
流通の仕組みには「入札(セリ)」と「相対」の取引の違いがある。

https://www.sento-gyorui.com/ichiba

相対取引とは、卸会社は市場の会社と協議して値段を決める。その価格で漁師から魚を買いあげる方式である。入札方式は、獲れた魚に対して複数の会社がいくらで買うかを入札し、一番高く買い取った業者が品物を手に入れることができる。相対取引のメリットは、魚のレベルに合わせた値段形成もあるが、取引が簡略化されたり、漁師も、獲れた魚がどうあれ一定の金額になるメリットがある。

ところで、大阪湾にもいくつもの漁港があるが、ほとんどが小さなものばかりである。大阪湾はかつては「魚庭(なにわ)」と称されるほど水産資源が豊富であったが、関西国際空港の建設や水質の変化などで漁業はどんどん縮小していく一方で合った。加えて、漁師よりも小売業の価格形成圧力が高くなり、「魚が買いたたかれる」状況にあった。漁師は獲っても獲っても収入が上がらない。なので、水産資源も減少していく、、、この負のスパイラルに歯止めを売ったのが大阪・泉州広域水産業再生委員会である。

http://www.sensyusaisei.com/

平成27年に誕生したこの組織は、大阪湾の水産資源再生のため、いくつかの新しい試みを行った。例えば、『これまでの単協毎の鮮魚販売方式ではなく、まず品質基準を「ルール化」し、高品質な魚づくり(泉州プレミアム鮮魚)に取り組み、販路拡大の道筋を構築。並行して鮮魚加工場・競り場の新設・更新を行う。』ことである。具体的に言うと、それぞれ漁港で獲れる魚を卸業者に渡すのではなく、一か所に集約して入札方式にすることで、「漁師が価格決定権を持つ」ことである。もちろんそのためには、漁港同士の連携と、「品質」がどこでも保たれなければならない。

この導入をするにあたり、反発したのは卸業者である。恫喝恐喝まがいの言葉もあったようだ。卸業者としては、漁師を買いたたくことによって収益が出てきたという思いがあるので相当の抵抗があった。しかし数々の難問をクリアして、いまは岸和田で一括しての入札を行っている。結果として魚価が向上して漁師の手取り収入が以前に比べ3倍になったという。しかも、前述の卸業者たちも結果的には以前と収益に差がなかったという。

http://www.iwashikincyaku.com/14629298522051

水産資源の維持に対して、水産庁は様々な掛け声を上げようとしているが、肝心のクロマグロなどの対応から見ても、国際的視点から見れば大きく遅れているとしか見えない。水産資源問題に詳しい勝川俊雄氏は、日本の水産資源維持政策がないことを再三指摘している。

http://synodos.jp/society/2632

大阪湾の漁獲高は、日本全国から見ればわずかな割合に過ぎない。しかし、生シラスという大阪湾の名物を消費者に届けつつ、一定の漁獲高で漁師の生活も確保するこの取り組みは、日本の水産業全体がこれから取るべき行動の一つを示しているといえるであろう。