コラム 兵庫県高砂市 松陽高校の活動に見る「SDGs教育の可能性」

~兵庫県立松陽高校 私たちのSDGs Project~

全国的にSDGsの活動が広まってきているが、その意識を多くの人に浸透し、実際に個々人の行動に移すまでには相当の努力を要する。一人一人が日々の暮らしの中で、どうやって17の目標を達成していけるかを自分なりに考え、自分なりに実践していくことに大きな意味がある。とはいえ、実際にどのような行動をするべきなのかを考える機会も少なければ、実践する機会はより少ない。貧困撲滅のための「こども食堂」やごみ削減のための「3R活動」を始め、身近なものもあるが、より多様な機会創出が必要である。

先日、兵庫県高砂市の県立高校、松陽高校のボランティア部による~私たちのSDGs Project~を訪問する機会があった。そこで得られたことから、上記の「機会創出」を解決する糸口が見えたように思うので、活動を紹介したい。

~兵庫県立松陽高校 私たちのSDGs Project~は、松陽高校ボランティア部の活動から始まった。ご存知の通り兵庫県は阪神淡路大震災という大規模な災害に見舞われた経験から、各地でボランティア活動が盛んである。また、特に瀬戸内海沿岸の高校には「防災ミニリーダー」が配置され、日々震災の記憶継承と、とっさの時の活動教育、日々の防災教育が図られている。また、東日本大震災を始めとする各地の災害にボランティアとして参加することもある(無論こういう活動は教師による監督責任の下に、適切な活動内容をもって行われる)。松陽高校がSDGsを考えるようになったきっかけは、この災害支援活動にある。

岡山県などで2018年に大きな被害を与えた「西日本豪雨災害」の際に訪問した際、避難所で暮らす方々の声で、「乾パンは水分を必要として、なかなか食べるのが大変」というものがあることに着目した。こういった声は以前からもあることを各種の災害後の支援活動をまとめた研究から知り、「どんな時でも美味しく食べることができる保存食を作れないものか」と、松陽高校の高校生たちは考えるにいたった。しかし地元の企業の協力もあり開発に取り組んだが、なかなか水分も多く含む、食べやすいパンが作れない。

そのころから、ボランティア部は自分たちの活動の在り方を考えるため、「何を目標にするべきか」を先生とともに考えるようになった。その中で着目したのが「SDGs」であった。そしてSDGsの内容を勉強していく中で、17の項目のうち「飢餓をなくす」「不平等を減らす」など7つのの項目を自分たちの活動の指針として定めた。それは、今回開発する商品に対しては「どんな時も美味しい」「どんな時も食べられる」という『製品の基準』へと進化した。彼ら彼女らと、中心になって活動する北川先生の努力により、栃木県で宇宙ステーションでも採用される「缶詰のパン」を開発する企業とのつながりが生まれた。そして学校の校医の先生から、「被災者はストレスがたまるので便秘になりやすい」などの問題敵を受けて、管理栄養士と相談し、成長機能に効果のあるブルーベリーを練りこむパンを考えた。結果生まれたのが「松の陽だまりパン」である。

食感はもちもちしていて、とても缶詰とは思えない。また、ブルーベリージャムが練りこまれ、程よく甘い。ストレスも解消されるような味わいである。消費期限は3年間と、保存食品としては短い。そのため、消費期限が近付いたら購入者から全部引き取り、子ども食堂などに提供する仕組みを考え、今後実践していく予定である。これもSDGsの「作る責任、つかう責任」の項目を達成するために学生たちが考えた仕組みである。

今後は、このような取り組みを、全国各地の高校や大学と連携して、防災の取り組みを多角的に行うチームを作っていく予定だ。それはSDGsの「パートナーシップ」も活動の指針としているからだ。高校生活は3年間と短く、また中心となっている先生も数年で移動をするのが常だ。そうなって活動がなくなってしまうのではなく、多くの高校や大学と防災活動を中心として連携することで活動を継続的なものにしようと検討した結果の工夫である。現在新型コロナの影響で各種イベントなどでのPRはできないものの、全国各地から購入の問い合わせが相次いでいる。

今回取材して特に大きいと感じた点は、高校生が「SDGs」の項目をしっかりと理解して「自分が日々活動していることの指針や哲学として落とし込んでいくこと」を実践していることだ。この経験は今後社会人となり、より大きい活動をしていく中でも活きるはずだ。日本では企業ですらSDGsの理解はもちろん、「具体的な企業活動」や「企業の経営理念・指針とのすり合わせ」ができていないところが多い中で、この松陽高校の活動は大いに参考になると思う。2030年までに、自分たちはどのような活動をもって目的を達成するか。その基本的なことを強く意識させてくれる活動であると思う。