コラム 地球を救う!プラントベースの「肉」を製造。米国インポッシブル・フーズ社

米国シリコンバレーのベンチャー企業として誕生したインポッシブル・フーズ。
Impossibleとはー英語・形容詞・意味は「不可能な」。
ゆえに、Impossible Foods とは「不可能な食べもの」を意味する。
そんな面白い名前を看板にしたこの会社の存在意義は地球を救うためという。
「愛は地球を救う」は有名だ。年に1度24時間頑張っている。しかし、不可能な食べ物が地球を救う?どうやって?そんなことが可能なのであろうか?
面白そうなのでさぐってみよう。

インポッシブル・フーズ社の成り立ち

インポッシブル・フーズ社のCEOは、パトリック・オーライリー氏。彼は医者であり、サイエンティストであり、名門スタンフォード大学の生化学の元教授である。2009年にその教授職から18か月のサバティカル休暇をとっていた時に、自分のこれからのキャリアを、緊迫する地球の環境問題のために費やそうと決意する。食肉用に動物を育てることが環境破壊を進めていると考えていたオーライリー氏は全米研究評議会で「21世紀のサステイナブルな(持続可能な)グローバルフードシステムに置ける畜産の役割」と題したワークショップを開催し、全米の学者たちに対し、畜産のもたらす環境への悪影響について問題意識を高めようとした。しかし、彼のアツい思いは届かなかった。手ごたえを感じることができなかった。
「ならば自分で問題を解決しよう」
「環境を破壊を導く食肉の代用になる食品を開発しよう」
そう決意。そして、2011年インポッシブル・フーズが設立された。

肉を救い、世界を救う

肉汁したたるハンバーガーは、おいしい。
家族でのBBQは、楽しい。
そしておいしい楽しいの中心には、肉がある。
その「おいしい」「楽しい」はそのままに、中心にある肉を、肉ではない肉に変える。

インポッシブル・フーズのミッションは、食料生産テクノロジーとして利用されている動物を他のものに代用することにより、サステイナブルなグローバルフードシステムを確立すること。そして、人類がもたらす地球環境への破壊的影響を削減すること。

畜産業は、地球上のどの産業よりも環境に悪影響を及ばしているという。地球上の45%の土地が畜産に使われ、どの産業よりも水を使用・汚染し、温室効果ガスの排出量も膨大である。

「食肉は環境に悪いから肉を食べずに菜食主義になりましょう」といった解決法もある。
インポッシブル・フーズが究める解決法は「肉=動物の肉」といった時代を終わらせ、「肉=プラントベース(植物由来)の肉」の時代を切り開くこと。

地球温暖化が進み、世界中で環境保全の必要性が叫ばれている今、動物から肉をつくるのは時代遅れ。これからの肉は、環境にやさしい植物由来の成分のみでつくる代替肉になるべきだという。

サイエンスと自然の力で食を変えるのだ。
そして、2035年までにプラントベースの肉が台頭する世界をつくりだすことを目指している。そのために、世界一おいしく栄養価が高くお手頃でサステイナブルなプラントベースの肉・魚・乳製品生産のための研究を続けている。

人類の食生活を根本から変えてしまう。
そんな不可能なことをやってしまおうという意気込みが、社名に込められているのだ。

インポッシブルバーガーを食べるだけでできる環境保全

地球の環境保全のためになる代替肉開発ビジネスに対する期待は高く、大手ベンチャーキャピタリストの数々、フィラソロフィー活動に従事するビル・ゲイツ氏などがすでに13億ドルもの出資をしている。

畜産業のうち、一番環境に悪影響を及ぼすのが肉牛の飼育だといわれている。そしてアメリカでは、牛肉の中でもひき肉の消費がナンバー1。そこでインポッシブル・フーズのサイエンティストたちは、環境のために最大の効果をもたらせる牛ひき肉の代替肉を開発することから始めた。肉好きにも喜んで食べてもらえる、限りなく肉に近いプラントベースの肉・・・。失敗を繰り返しながらも2016年に商品化を実現。肉汁したたる、ビーフバーガー好きをもうならせるインポッシブルバーガーが誕生した。いまや、全米大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングのメニューにも取り入れられている。

ひとつのハンバーガーを食べるとする。
そのパティをいつものビーフではなく、プラントベースのインポッシブルバーガーに変えるだけで環境保全のインパクトは大きい。実に、使用する土地は96%削減でき、水の使用料も87%減、そして温室効果ガス排出量も89%も減らすことができるという。

インポッシブルバーガーのWEBサイトには、牛肉の代わりにインポッシブル・フーズ製品を食べるとどれだけ地球保全に貢献できるかが一目でわかるImpact Calculatorが搭載されている。誰もがインパクトを持てることを実感できるサービスだ。

ビジネスモデルは、SDGsの主要なゴールを達成すること

2018年インポッシブル・フーズ社は、牛肉に代わる革命的なプラントベースの肉を開発し、また消費者に環境に配慮した代替品使用を啓蒙した功績から、国連が授ける環境に関する最高の賞、United Nations Environment Planetary Health Champion of the Earth Award を受賞。
2019年には、国連グローバル・コンタクト(UNGC) に参加し、企業の持続可能性に関する10の原則への取り組みを誓約。
インポッシブル・フーズは、自分たちを「プラネット・カンパニー」と呼ぶ。地球を救うためのビジネスとの自負からそう称しているのであろう。だから、インポッシブル・フーズは、環境と社会的な責任を重んじる。ビジネスに関わるすべてのベンダー・サプライヤーに向けた厳しい行動規範を設け、サプライチェーンのすべての人、もの、サービスのスタンダードを高く保っている。

また、インポッシブル・フーズは、全米の食の不平等と社会的不公正撲滅のためのコミュニティー活動 #ImpossibleCommunity にも力をいれている。2018年からフードバンクへの寄付を行ってきたが、コロナ渦失業者が増え、食べるものにも困っている全米のコミュニティーに100万食寄付することを今年のゴールにしている。また、Black Lives Matter 運動が広がる中、社会的正義のために活動する団体への寄付も強化している。

「わたしたちのビジネスモデルは、SDGsの主要なゴールを達成することに専念している」とインポッシブル・フーズ社のIMPACT REPORT 2019で語っているように、地球を救うために生まれたベンチャー企業は、着々と地球のための持続可能な開発を邁進している。

2020年現在、インポッシブル・バーガーのほかに、インポッシブル・ポーク、インポッシブル・ソーセージがラインアップに加わり、それらは、アメリカのスーパーで堂々と肉売り場に並べられている。

地球のために、肉ではない肉を食べる時代がやってきている。

出典